Sunday, May 19, 2013

詩心と病院


花巻にて、北上川がすぐ近くにあり、日曜日まだ山や家の裏手に残雪があったが久しぶりに妻と堤防に行ってみた どんよりとした肌寒い春の靄の中に北上川も遠くの北上丘陵も物皆総て靄の中に春をぢッと待っていたS.41.2
詩心と病院
 東北の病院には脳卒中、胃癌が多く、しかもいわゆる手遅れの病の形で来院する。昭和四十一年の当院の入院患者の半数は、入院してから一年以内に死亡している。我々のような農村病院では都会の病院とは違い、もっと農村に入り込み衛生思想の啓蒙に力を注ぐとともに、市町村や農業団体の実施する健康相談や成人病検診等に積極的に力を貸すことが必要となってくる。私はときどき衛生講和を頼まれるが喜んで御引き受けしている。しかし農村の人達に飽きないように話をすることはなかなか難しいようである。スライドなどを用意して行っても、たいてい即席会場なので暗くするのが大変だし、やっと設営しても数字やグラフでは暗くなった事を幸いと居眠り組みが多くなる。時には民謡でも歌って度胆を抜き寝向きさま眠気さましをしてやらないと調子が出ないこともある。昔保健所に居る頃作った高血圧予防の歌をひとつ。

元気だね節

おこるなりきむなくよくよするな
あまい味噌汁さっと煮て
飯は麦めし腹八部
お酒はほどよく笑って暮らせ
高い血圧低くなる
エーサホイ元気だね

お料理作りは女房のつとめ
青い野菜に人参、トマト、
ワカメ、コンブや果物を
食べる家には中風はないよ
長寿の家とほめられる
エーサホイ元気だね

家のしまりは亭主の任務
いろりこたつはストーブに
部屋はポカポカ換気良く
太陽差し込む窓つけりゃ
福の神様入り込む
エーサホイ元気だね

花巻は岩手県の中心部で北上川に面した静かな町である。西に奥羽の連峰がつらなり東は北上丘陵のなだらかな起伏が続き、北に岩手山、東に早池峰の秀峰が雪に輝き、北上川には今猫柳が一面に銀色の芽を葺き、みちのくの春を告げている。こうしたけがれなさ美しい自然の風景と、この大自然のもとで培われた素朴な農村の人たちの心が、高村光太郎や宮沢賢治のつきることを知らぬ美しい詩の源泉となったことだろう。
私のところの病院は北上川のすぐそばで、賢治が愛する農民の溜めに作った羅須地人協会の森が見える。ここには賢治が農民に対する限りない愛情をこめてうたった「雨ニモマケズ」の詩碑が建っている。

野原ノ松ノ林ノ蔭ノ
小サナ萓ブキノ小屋ニヰテ
東ニ病気ノコドモアレバ
行ッテ看病シテヤリ
西ニツカレタ母アレバ
行ッテソノ稲ノ朿ヲ負ヒ
南ニ死ニサウナ人アレバ
行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ
北ニケンクヮヤソショウガアレバ
ツマラナイカラヤメロトイヒ
ヒデリノトキハナミダヲナガシ
サムサノナツハオロオロアルキ
ミンナニデクノボートヨバレ
ホメラレモセズ
クニモサレズ
サウイフモノニ
ワタシハナリタイ

詩碑は高村光太郎の書いたものである。私は毎朝この森や北上河畔を散策するのが楽しみである。賢治の農民に対する尽きることを知らぬ深い愛情の詩を心に繰り返しながら、真の人間愛に支えられた。農村の人達から本当に親しまれ愛される、暖かい農村病院を作り上げたいものである。

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