Thursday, August 14, 2008




菩提和讃
若人三世一切の
法界性を観ず應し 普く衆生を観ずるに
一念不生に至る時 男女上下の隔てなく
偶々一念迷い初め 佛を了知んと欲しなば
一切唯心造なりと 各々佛生具しぬれば
忽ち佛性現前し 其の儘即ち佛なり
自凡夫となるゆえに 三毒五慾の情起り
悪口兩舌綺語妄語 貪り惜て嫉み妬み
悪業罪を造りては 千生萬劫沈淪し
夫人間の身を受て 殺生偸盗邪婬慾
瞋り恚ち愚痴我慢 噌愛執着誉め謗り
地獄や傍生餓鬼となり 受る苦患ぞ怖しき
此世に生れ来る事は 爪の上端に置ける土
苦患に沈む輩は 況て尊き佛法の
百千劫にも遇がたし 必出離を求むべし
春は萬の種を蒔き 三悪道に堕入りて
大地の土のごとくなり 教に親しく遇事は
斯る時節を失はず 人々賢き智慧あらば
秋の實登を待のみか 衣服家宅に至るまで
今をも知れぬ後の世の 空しく過るぞ愚なり
無常の風に誘はれて 耳も聴えず目も見えず
聚り來つて責るゆえ 遠き覚悟のありながら
永き冥路を打忘れ 老若貴賤も諸共に
忽ち此世を終る時 一生作し置く罪過が
臨命終の苦しみは 百千萬の鋒に
其時何をか頼むべき 冥土の用には成ぬもの
携へ行べき道ならず 伴ひ行事更になし
少時浮世の夢にして 突き悩さるるごとくなり
田畑数多有るとても 金銀財宝持つ人も
妻子眷属有しとて 偕老比翼の契ひも
出入の息の絶えぬれば 野辺の送りを営みて
空の煙と消え失て 蓬が根の塵となる
壁も柱も戸障子も 始て何れも後悔し
後生菩提も願うべし 老も若も仇野の
朝夕撫し黒髪も 造悪人の最後には
獄卒の姿と見えければ 斯る憂目の有ならば
悪き心も持まじに 我身に悪行するのみか
倶に作し罪過の 己を作る地獄ゆえ
此悲しさを誰に告 思い遣るべし其時の
因果の道理を弁えて 人に膽性を傷めさせ
我身一つに報い来て 免れ遁るる方ぞなき
又誰をかを恨むべき 苦言の程は幾ばかり
悪しき心を矯直し 一声唱える稱名も
無始劫來の罪障も 尋常佛に近づきて
香花燈燭採りささげ 身口意三業清浄に
坐禅観法修しぬれば 諸佛の浄土に通徹し
一時に消失果ぬれば 禮拜恭敬を慇懃に
粥飯茶菓等供えつつ 稱名念仏經陀羅庀
浄土は従來我身にて 心が即ち佛なり
生々世世の父母や 其恩愛の深き事
然るに六趣に輪廻して 其有様を察するに
皆々悲願を企てて 熟々衆生を観ずるに
六親眷属師長まで 各々現世に異ならず
種々の苦患に浮沈む 身の毛も寒竪ばかり也
無明の眠を覺しつつ 行住坐臥に怠らず
六衢の衆生を愍念し 本有の衆徳を発露して
般若の船に竿さして 一心勇猛に修業して
菩提の道に趣かせ 不報の恩を報ぜんと
涅槃の岸に至るべし

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